浅葱色の瞳に
「鞠絵…何かと言いにくい事情が有るやもしれん…だが此の先の鞠絵の命運とおなごとしての幸せを考えるのならば元の時代に帰れるのが一番良い……其の〈とうきょう〉とやらの穏やかで平穏な時代で鞠絵が生まれ育ったのなら尚更の話…此の血生臭い乱世は鞠絵には似つかわしく無い……鞠絵も我々の思いは察っしているだろう?」






…解ってる


近藤さんの気持ちは痛い程解ってる



未だ会って間もない怪しい夷人相手にこんなにも親身になってくれて…近藤さんは何て心が広いのか






…簡単に口に出せるのならどんなに楽だろう



"恥じ"や"後ろめたさ"なんて感じる事が無ければどんなに楽だろう


自分で選んでおいて世話無い



けれどこんな言わざるを得ない状況になるなんて予想だにしなかったのだ





此の時代に来る切っ掛けとなったであろうあたしの最後の"行動"を声に出して近藤さん達に伝えられたら他の帰る為の手立てを一緒に考えてくれるかもしれない




…だけど言える?








"死のうと思って飛び降りました"なんて―…








「…鞠絵…言ってはくれないか」



「鞠絵さん…あなたが居るべき場所へ帰る為の方法の糸口なのですよ…」





…望んでいないにも関わらず涙腺が緩くなる


視界が混濁し、滲み、睫毛を伝って畳に染みが出来る事を極度に恐れた



加えて唇を裂ける程噛み締め、嗚咽が漏れる事を決して許さない



…どうか手足の震えが近藤さん達に伝わりません様に、と切実に願う




此の重苦しい空気が消え去るであろう大きな急展開を期待しつつ、未だか未だかと時の流れを急かして居ると、不快極まりない"尋問"は意外な人物の一声で呆気なく終焉する
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