浅葱色の瞳に
「……もういいじゃねェか」





…変わらず低く唸るような声で助け船を出してくれたのは





…土方さんだった



「言いたかねェんなら無理強いして言わせなくたっていいだろぉが…」



「う、うむ…だがなぁ…」



「覚えて無ェだけかも知んねェだろ…なァ?」



悪戯に口角を持ち上げ、意地悪そうに笑う土方さんはあたしを見据え、同意を促す



「鞠絵…そうなのか?」



「…ごめんなさい近藤さん…本当に覚えてなくて…今……ずっと…思い出そうとしてました…」





嘘をついた





咄嗟についた保守的な嘘





けれど、その嘘を罪悪感も感じずに口に出来たのは



紛れもなく土方さんのお陰であった




「そうか…なら致し方無い…では鞠絵が元の時代へ戻る為の術は他に考えるしかない様だな…問題は術が見つかるまで鞠絵の身の置き場をどうするかだ…其の毛髪の色…長州勢や他の浪人に目を付けられれば厄介な事にも…他の隊士達にも夷人の娘を匿う等示しがつかん…かといって部屋に閉じ込めて置くのも不憫でなァ…」



「山崎に鬘を作らせりゃァ良い……そうすりゃ、ある程度目眩ましにゃなる」



「それもそうだが…男所帯でおなご一人と言うのも…」



「鞠絵には男装させ、俺の小姓として片時も離れさせず共に行動する…広間にも寝かせねェ…飢えた野郎共ばかりだ、何時襤褸が出るとも限らねェからな…」





…知らぬ間に坦々と話が纏まってゆく…



あの土方さんが…どんな風の吹き回しなのだろう?



あたしに何かしらの利用価値でも見出だしたのだろうか



あたしは先程の口論を未だ根に持っている様だ…どうしても土方さんの腹の内に疑いを持ってしまう
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