浅葱色の瞳に
しかし人の善意は有り難く頂戴するものだ



土方さんは、あたしが此処に居られるよう手配してくれている



根は良い人で…きっと素直じゃないだけかもしれない



仲間想いなのは明確な訳だし…



元の時代に帰る手立てを考えるにあたり、少なからず猶予期間が与えられたと共に身を置く場所も与えられたという安堵感に包まれ、心に余裕を持てた



「…年頃の娘に袴を穿かせる等…私は鞠絵が不憫に思えてならん…」



「…御託並べてる場合じゃねェだろぉが…あれが嫌だ此れも嫌だ言ってる場合じゃねェんだよ」



「うむ…しかし男装したからといっても…やはりおなごが暮らすには何かと不便であろう…湯や厠…召し代え…逸れに…いやはや…口にしにくいのだが………お馬も既に月々迎えている齢だろうに…」



…まるで舌の上で言葉を転がしているかの様に言い放つ近藤さんは、あたしから視線を不自然に大きくずらした


おまけに極端に声色も小さくなるもんだから、耳を澄ましていなければ近藤さんの言葉を聞き拾う事が大変困難だった







〈お馬〉とは…女性特有である生理現象の江戸時代の隠語



お馬の語源は当時の女性が和紙を重ねて四隅に紐をつけ、馬の腹掛けのようにして局部に当てていた事が由来


他にも…月経は当時穢いものだと認識されており、その期間女性は馬小屋の藁の上へ経血を垂れ流しにしていたからと言う説もある





…心無しか近藤さんの顔はほんのり桃色に薄く色付いていて



目でも数えているのだろうか、眉をしかめながら畳を凝視している



縮こまり不自然に咳払いを繰り返す近藤さん


先程感じた威厳の欠片すら今は無い



視野を拡げ、まじまじ目を凝らすと…



其処には人斬り集団の長だなんてとんでもない…可愛らしさをも感じる只の"男"がちょこんと遠慮気味に佇んでいた
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