浅葱色の瞳に
「あ…はい…」





沖田さんに促され、立ち上がる




沖田さんのか細い指で開け放された障子戸の外を不意に見上げると


蠢く雲が目についた先程とは打って代わり、雲が切れた事に寄って本来の煌めきを取り戻した月が、燦々と黄金色の輝きを放っていた


沈んだ陽が招いた"闇"に、先程は恐怖すら感じていたのだけれど…


月の光が明るく照らすからか"闇"は心無しか先程より薄らぎ、気味の悪い雰囲気を醸し出す空気は軽んじている





「…綺麗…」



此の時代の澄んだ空気が織り成す有りの侭の月の艶やかさを目の当たりにし



実直にそう感じた





此の憂いを帯びた美しさを言葉で表すのなら


余計な言葉を付け加える必要は無い





「…あなたも」



「…え?」



「ふふ…良く出来た紛い物だ………私には到底見当が付きませんもの」



そう言うと沖田さんはあたしの髪に触れ、優しく掌で撫でた






「…も、もう…からかわないで下さいよ…」





…胸の鼓動が高鳴る





動悸なんて…物珍しいものでもないのに…
思いの外動揺する自分に一番驚いているのは他でもない…自分自身だ





一気に跳ね上がる心拍音は身体中に響き、止まる処か加速する一方で



一定の静寂を保つ部屋の空気を振動させんばかり





「からかってなんか無いですよ…綺麗な御髪だなあっと…」
「…総司………無駄口叩く暇があンなら鞠絵を連れてとっとと出て行け」
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