浅葱色の瞳に
「早急な手配だったが…監察を総集してあの餓鬼の情報を片っ端から調べ上げさせた…山崎」




先刻から気配を放ち出した山崎を部屋へ招き入れる





「…夜分に失礼致します」





音もなく障子戸が開くと、黒装束を身に纏った山崎が"似つかわしくない"蝋の炎に照らされ露となる




…漆黒の衣に広く滲む生臭い染みは"山崎の血ではない"事は明確だ





「お、おお…山崎君…御苦労だったな」




「"鼠"の始末も次いで承っておりましたので…極めて楽な任務でありました」





「山崎…報告してくれ」




「はい」



固く閉じられた報告書を手際良く広げ、山崎の能面を縫い付けた様な表情は口元だけが微かに動く





「主に肥前の出島・浦賀港沖、次いでその他の港付近にも夷国の船が来航したと言う報告は有りません」



「…何処ぞの藩の幕臣・旗本が入京したという情報は」



「同じく有りません、江戸方面にも掛け合いましたがあの娘に繋がる出生や身分等の有力な情報は掴めませんでした……調査結果をご報告致します」




「……」




「申し訳有りません、あの娘の情報の収穫は何一つとして得られませんでした…全て抹消されているかと…」





「…今回は急過ぎる調査依頼に加えて調査期間にも余裕が無かった…致し方ない」





「…再度、洗いざらいお調べ致しましょうか」





「いや…経歴が抹消されているにせよ、あの風貌で情報が全く無い等と有り得たもんじゃねェ……其れにある程度は"予期していた事"だ」





「…?」





「歳…私はお前の考えに全く見当がつかん…鞠絵は未来からやって来たのだ、此の世に鞠絵に関する情報等存在する筈が無かろう?」
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