浅葱色の瞳に
心
――――――……
「此方が鞠絵さんにお召しになって頂く就寝用の小袖と袴です」
「…あ、有難う御座います」
差し出された薄手の木綿生地に月明かりに照らされた沖田さんの影が色濃く写る
時折、柔らかな風が障子戸を揺らすだけで
あたしの為に慌ただしく動き回ってくれた沖田さんの衣擦れの音も
一連の動作が漸く落ち着いた事により次第に京の晩の静寂に溶け込んでいった
「なんせ、おなごの着物等用意しておりませんからね…胴回りが合うかどうか…」
「んー多分大丈夫です…何とか着てみます、本当に有難う御座います」
「いえいえ、何か不便なことが御座いましたら何なりと言って下さい、不粋な遠慮は不要です…私は廊下に出ています、お召し変えが済んだら呼んで下さい」
「…はい!有難う御座います!」
沖田さんは音も無く立ち上がり、先程"おなごだから、"と用意してくれた屏風に小袖を掛けると柔らかな笑顔と共に部屋を後にした
沖田さんの親切が今のあたしにとっては有難い
この時代へと一緒に飛んで来たロンTとデニムのショートパンツ
現世では極ありふれた服装もこの時代では命取りとなる…
ある意味、現世では珍しくも何ともない化学繊維で大量生産された生地が、西暦2009年の日本に確かにあたしが存在していたという証…
その薄っぺらで安っぽい生地を見つめ、指の表面でなぞると、寂しさだったり虚しさだったり…
不思議な事に懐かしくも感じてしまう
現世への想いと、何とも形容し難い複雑な気持ちを一時的に断ち切る為に身体から脱ぎ捨て、冷たい畳の上へ静かに落とす
小袖に袖を通すと、改めてこの時代に馴染まなければ行けないと言う強い"自覚"が新たに生まれる
けれども言い方を変えればある種"諦め"に近いのかもしれない…