浅葱色の瞳に
「…鞠絵さんが」



「え?」





不意に名前を呼び掛けられ、反射的に声のした方を見やり屏風から顔を覗かす





「…鞠絵さんが、私達の元に現れたのは運命なのかもしれません」




耳に馴染みつつある高音質の声はまるで管楽器が奏でる音色の様


静寂に包まれた京の空気に相変わらず良く響き、良く通り………風情や品格なんてものさえ滲み出る



聞き手に心地好さをも感じさせつつあるそんな柔らかな声の持ち主は





月明かりに照らし出され、障子戸に淡い墨色のシルエットを全身で描いていた





「…やっぱり運命なんでしょうかね、あたしも同じ事考えてましたよ」



「…鞠絵さんにとっては大変災難な事でしょうが……いや、こんな事を言われたら鞠絵さんは憤慨するかもしれません………でも」





障子戸には沖田さんの姿形が陰として写し出されたままで



時折吹きそよぐ柔らかな風が、障子戸を揺らすと共に沖田さんの綺麗に切り揃えられた髪を悪戯に乱した



勝手気ままに交差する髪は細い影を新たに作り出す一方



それとは対照的に沖田さん自身は微動だにしないまま口を開き続ける





「…鞠絵さんが来てくれて良かった」





小袖を肩に背負ったまま、手を掛けようと袴に伸ばした腕が反射的に静止する




言い終わると同時に、それまで微動だにしなかった沖田さんの首が少し俯き加減になったのは気のせいだろうか




そんな事に気をやる暇も無く、純粋に疑問を感じた沖田さんの言葉を何の気なしに問う





「どうしてですか?」





反射的に静止していた腕は直ぐ様、着慣れない小袖と袴を相手に再び忙しなく動き出していた



着付けに気を取られながらも神経はしっかりと聴覚に集中している


と言ってもこれから返ってくるであろう沖田さんの返答を、期待や不安を持ちつつ待ち詫びている訳ではなかった



本当に何の気なしに疑問を感じただけだったのだから





本当に何の気なしに…
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