HAPPY!!
「無視して練習しよ」

「春はあけぼの。ようよう白くなりゆくやまぎわ、少し明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる」

「うんうん」

「夏は夜。月の・・・・・・、何だっけ?」

「ありゃりゃ。月のころはさらなり、だよ」

「ああ、月のころはさらなり、闇もなお」


あたしはすっと暗記できたけど、そうもいかないみたい。

おつむが違うのね、おつむが。


10回位練習して、

「うん、これなら合格できそうだね」

「よっしゃ!行ってくる!」

「オレもノート完成した~!木内、一緒に行こうぜ」

「オッケー」


樹と木内が一緒になって教室を出ようとしたのだけれど、


「あ、木内シャツ出てる」

「出ちゃうんだよ。しょうがないだろ?」

「オレが入れてやるよ」

「いいよ、入れなくて」


まるでホモのような絵図。

男同士で、気持ち悪いってば。


「いいって。もー、木内ホントかわいい!」

「ヤダ、富永尻触るな!」

「触ってねーよ!」

「触ってるよぉ!!」

「木内ホントかわいい!!」

「やめろぉぉ!」


木内が断末魔の叫びを発し、あたしたち女子は覚めた目で見守る。

麻美だけは、腐女子の視線で見ているので少し楽しそうだけれど。


「キモ」

「同感」

「私も」

「夫婦漫才みたいだね」

「バカ」

「アホ」

「せいら、もうお前はいいよ」


呆れた目のまま、つっこまれる。

なんだかあたしは完全にいじられキャラが確立したようだ。


「前も入れてやるよ」

「いいよ、変態!!」

「大丈夫、触んないから」

「そういう問題じゃない!」

「触んなきゃいいだろ!?」

「やめろぉぉぉ!!!!」


止めてやろうかとも思うけれど、木内がのた打ち回る姿が面白いのでそのままにしておく。


「アホくさ。テスト行ってくるわ」

「行ってらっしゃ~い♪」

「頑張れ~」

「はなせぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


そのあと、樹くんが保健室に担ぎ込まれたことを、わたしたちは知らない。
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