恋時雨~恋、ときどき、涙~
プロローグ
「手話、勉強したんけ。真央と話がしたかったから」
わたしを差す、愛しい人差し指。
手の甲を前にして左肩に当てる、右手の人差指。
左の頬を2回、さするように回す優しい手のひら。
わたしに向かって『人』という文字を空書きする、不器用な人差指。
親指と人差指を開いて、のど元を挟むように当て、前に出しながら閉じる、魔法の指。
茜色に染まる波打ち際で、健ちゃんは言った。
「真央の、いちばん、大切なひとに、なりたい」
健ちゃんが初めてわたしにしてくれた手話だった。
その下手くそな手話に、思わず笑ってしまった。
でも、わたしは泣いていた。
この恋の障害物は、他の何でもない自分の耳だったから。
わたしを差す、愛しい人差し指。
手の甲を前にして左肩に当てる、右手の人差指。
左の頬を2回、さするように回す優しい手のひら。
わたしに向かって『人』という文字を空書きする、不器用な人差指。
親指と人差指を開いて、のど元を挟むように当て、前に出しながら閉じる、魔法の指。
茜色に染まる波打ち際で、健ちゃんは言った。
「真央の、いちばん、大切なひとに、なりたい」
健ちゃんが初めてわたしにしてくれた手話だった。
その下手くそな手話に、思わず笑ってしまった。
でも、わたしは泣いていた。
この恋の障害物は、他の何でもない自分の耳だったから。
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