恋時雨~恋、ときどき、涙~
おやおや、困りましたね。


おしゃべりなお月様が秘密を話し始めてしまいました。


(昨夜のことなんだけどさ。王子が、姫さまを連れ出したんだ。本当だよ。だって、この目で確かに見たからね)


仕方ないですね。


お月様は。


(ふたりが向かったのは、別荘だよ)


別荘?


(そうそう。きみも知っているだろう? 例の別荘だよ。ほら、ぐるぐる回る階段がある、小さな別荘さ)


ああ。


なるほど。


(ふたりは別荘で一夜を明かしたんだ。とても幸せそうだった。だけどね、ふたりはこれからがいちばん大変なんじゃないかと思うんだ)


え、なぜ、そう思うのですか?


ようやく思いが通じ合ったというのにですか?


(だって、そうだろう? ふたりはこれから……)


(こらーっ! 月! またおしゃべりばかりして!)


おや。


これはこれは、しっかり者のいちばん星さまではありませんか。


(やあ。久しぶりだね。きみもそろそろ、旅支度した方がいいぞ。明日は快晴になるからね)


あっ。


これはうっかり。


そうすることに致します。


(ほらほら、月。きみもこんなところでおしゃべりばかりしていないで。もうじき仕事の時間だぞ。今夜も夜の町をやさしい光で照らしておくれよ)


(しょうがないなあ。あーあ。もっとおしゃべりしていたかったのに)


(ほらほら、急いでおくれよ)


(分かったよ、今行くから。ということで、続きはまた今度にしよう、雨雲さん)


ええ、またお会いできる日を心待ちにしております。


来年の雨の季節になったら、戻ってまいります。


((さようならー。雨雲さーん))


さようなら、お月様にお星さま。


ああ、いけない、わたくしも急がなくては。


向こうから、真っ白な夏雲さんが来たものですから。


いそげ、いそげ、ぐんぐん走ろう。


では、みなさま、また雨の季節に、お会いいたしましょう。








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