恋時雨~恋、ときどき、涙~
〈お父さんに、要らない情報、吹き込まないで〉


「ごめん。だって、お父さんたらしつこくて」


わたしとお母さんは、同時に吹き出した。


お父さんは穏やかで物静かそうに見えて、けっこうやきもちやきなのだ。


健ちゃんが迎えに来るのを、わたしはリビングで本を読みながら待っていた。


8時55分になった頃、お母さんがわたしの肩を叩いて「来たよ」と教えてくれた。


肩からお気に入りの白いポシェットを下げて、お弁当入りのカゴバッグを持ったわたしに、お父さんが言った。


「気を付けるんだぞ」


わたしが頷くと、お父さんは涼しい顔をして新聞を読み始めた。


わたしは、可笑しくてたまらなかった。


新聞が、逆さまだ。


いつも冷静なお父さんが珍しく動揺しているのは、一緒に出掛ける友達が順也以外の男の人だからだ。


リビングを出ると、玄関でお母さんと健ちゃんが何か話していた。




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