恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは頷いて、ポシェットからメモ帳とボールペンを取り出した。


【お弁当 作ってきた】


そして、もう一度カゴバッグに手を伸ばすと、わたしよりも先に健ちゃんの長い腕が伸びた。


顔を上げると、健ちゃんはカゴバッグを取って、八重歯を輝かせた。


「弁当、楽しみだんけ。ありがとうな」


健ちゃんの笑顔を見ると、わたしの心臓に住んでいる子うさぎたちが踊り出す。


お弁当、頑張って作って良かった。


心から、そう思った。


入り口には、長蛇の列ができていた。


それでも流れは結構スムーズで、約10分ほどで園内に入ることができた。


入園料は大人500円で、健ちゃんが払ってくれた。


「弁当のお礼だんけ」


〈ありがとう〉


とわたしが手話をすると、べつにーと健ちゃんは照れ臭そうに笑った。


動物園に来たのは、小学生の遠足以来だ。


あの時、順也はおたふく風邪で遠足に参加できなかった。


最高につまらない遠足だったことを、覚えている。


入園すると、すぐ正面にペンギンがいた。


わたしは駆け出した。





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