恋時雨~恋、ときどき、涙~

まっすぐな彼女

10月。


静奈が隣に居ない短大は、異国のようだ。


講義はぜんぜん理解できないし、昼食もひとりぼっち。


秋の涼しい風がやけに心に染みて、痛いくらいだ。


10月上旬にしては、珍しく蒸し暑い日の事だった。


わたしは、ひとりのかけがえのない女の子に出逢った。


静奈の通訳に頼れなくなったわたしは、先生が黒板に書き出す文字を頼りに勉強するしかなかった。


静奈の他に友達は居ないし、みんなが外国人のように思えて、心細くてたまらなかった。


わたしは、いつも、広い教室の1番いちばん後ろに座る。


癖だ。


先生の言う事を静奈に手話で通訳してもらっていたので、他の人の邪魔にならないようにするためだ。


静奈に通訳してもらえなくなったのだから、前に座ってもいいのに。


癖は、中々抜けない。


講義が始まって、30分経った頃だった。


遅刻したのだ。


背の高い女の子が、額に汗を滲ませながら、忍者のようにこそこそと後ろのドアから入ってきた。


そして、そのままわたしの隣の席に座った。




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