恋時雨~恋、ときどき、涙~
教室は広々としていて、それに比例するように生徒の人数は60人にも及ぶ。


静奈以外に知っているのは、高校が同じだった人が数人だけだ。


こんな女の子、このクラスに居ただろうか。


わたしは、横目で彼女をちらりと伺った。


彼女は席につくや否や、机の上にいろんな小道具を豪快に広げた。


大きな、鏡。


マスカラ、ファンデーション、アイライナー。


スパンコールのようにきらきら輝く、ラメ入りのピンク色のリップグロス。


それだけではなく、化粧水や乳液まで並べ始めた。


すごい。


メイクアップアーティストみたいだ。


元々、幼顔の彼女は、20分弱で歌舞伎町のグラブの女の子たちのように、艶やかに変身した。


すごい。


この女の子の手には、魔法が宿っている。


わたしは黒板を写す事もすっかり忘れて、その化粧さばきに見入ってしまった。



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