恋時雨~恋、ときどき、涙~

いちばん大切なひと

少しだけ、後悔していた。


彼のラインをブロックしたからだ。


健ちゃんと音信不通になって、それから何とかわたしの中で整理がつき始めていた。


わたしは、夏の優しい夢を見ていたのだ。


耳が聴こえないわたしを好きになってくれる人なんて、いないのが当たり前なのに。


少し優しくされたくらいで揺れてしまった自分が、無性に笑えた。



10月も中旬に差し掛かり、風も若干冷たく透明になった。


秋の空気は、こうばしい香りがする。


国道に列なる街路樹には、小さな金色の扇がつき始めた。


金色の、銀杏の葉っぱ。


木から銀杏の葉が散る様は、高級な蝶々のようだ。


わたしは、遅刻大魔王の幸と、マイペースな菜摘と行動を共にするようになった。


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