恋時雨~恋、ときどき、涙~
健ちゃんの一人暮らしには、何も文句はない。


わたしの家から近いし、すぐに会える。


でも、なぜ、一人暮らしなのにこんなに広い部屋を借りたのか、疑問でならなかった。


新築のアパート。


らせん階段をぐるぐる回りながら上っていくと、4階に、健ちゃんの部屋がある。


車椅子の順也でも気軽に来れるように、とエレベーター付きのアパートだ。


一人暮らしなのに、2LDK、バス、トイレ付き。


あげくには、リビングの西側に、バルコニーのようなベランダまで付いていた。


ベランダに立つと、ずっと向こうに小さく海が見える。


黄昏時になると朱色の夕陽が落ちて、小さな絶景が見れる。


短大は冬休みに入り、日曜日の午後。


10畳の広いリビングに、冬の優しい西陽が朱色の光線になって射し込んでいた。


健ちゃんが、キッチンから顔を覗かせた。


「真央も手伝って」


わたしはわざと知らないふりをして、窓の外に視線を飛ばした。


今日は、ここに来客が来ることになっている。



< 326 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop