恋時雨~恋、ときどき、涙~
「お待たせ」


右手に新聞紙の小包を抱えて、左手には小さな紙切れを持っていた。


中島くんがきょとんとした。


「あれ? 長澤さんもいたんだ」


静奈を見た中島くんは、しまったと言わんばかりに肩をすくめた。


「失敗したなあ。長澤さんもいるなら、少し多目に持ってくれば良かった」


わたしと静奈はお互いを見ながら、首を傾げた。


中島くんは楽しそうに笑いながら、新聞紙の小包をわたしに差し出した。


「はい、これ。少しで悪いけど」


受けとるとずっしりと重みがあって、少しひんやりした。


わたしは人差し指を左右に振って、首を傾げてみせた。


なに?


その手話を静奈が通訳してくれた。


中島くんは目をきらきらさせながら言った。


「メバル、だよ」


メバル。


もしかして、お魚のメバルのことかな。


わたしは小包を見つめた。


〈魚?〉


わたしの手話を静奈が訳すと、中島くんはうんうんと頷いた。


「正解。メバルは今が旬なんだ。今日、朝はやくに親父が、漁港に行って買い付けてきたやつだから、新鮮だよ」


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