恋時雨~恋、ときどき、涙~
この時間帯に、よくこうしてバッタリ会うことが多々ある。


配達時間と、わたしが短大へ向かう時間が、ちょうど重なるのだ。


斎藤さんが、わたしに気付いたらしい。


目が合った。


「あ、どうも。おはようございます」


また会いましたね、と斎藤さんは微笑んだ。


わたしも微笑み返して会釈をした。


何度か顔を合わせるうちに、斎藤さんはわたしの耳が聴こえないことを悟ったらしい。


「これから学校ですか」


とわたしが読み取れるように、大きな口で話し掛けてくれる。


うん、と頷くと斎藤さんは「気を付けて行ってらっしゃい」と最後の郵便物をポストに投入して、バイクに飛び乗り去っていった。


郵便受けを確認するのは、いつも短大から帰って来た時だ。


わたしは郵便受けには目もくれず、外に出た。


アパートの前に散っている枯れ葉や小石を、大家さんが竹箒で集めていた。


アスファルトに朝の陽射しが当たって、春のこうばしい香りが立ち上ってくる。


風がやわらかくて、気持ちがいい。


わたしは空を見上げた。


水色の上空を、一機の飛行機が一直線上をすいすい突き進んでいく。



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