恋時雨~恋、ときどき、涙~
あの飛行機、カッターみたいだ。


まるで青空を真っ二つに切り取るように、まっすぐ進んでいく。


飛行機が、白い線を大空に引いていく。


ひこうきぐも。


何かいいことがありそうな気がした。


駅に向かって歩き出した時、たった今去っていったはずの郵便配達のバイクが戻ってきた。


斎藤さんだ。


「いやあ、危なかった」


とヘルメットを少しずらしながら、斎藤さんは恥ずかしそうに笑った。


「これ、配達し忘れるところでした」


と投入し忘れたという封書を、一階の住人のポストに入れて、じゃあ、と素早く去っていった。


わたしはこっそり笑った。


斎藤さんも、ちょっぴりおっちょこちょいなんだ。


笑いながら、わたしはすっかり気が変わっていた。


いつもなら、郵便受けを確認するのは夕方なのに、なぜだか、足がポストに向かっていた。


銀色の少しだけ錆び付いた取っ手を引くと、2、3通の封書が届いていた。


以前、食器を購入した通信販売先からのダイレクトメール。


春だし、そろそろまた新しい食器を購入するのもいいかもしれない。


2人分のスマホの請求書。



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