恋時雨~恋、ときどき、涙~
もうこんな時期か。


1ヶ月は早い。


3通めの封書を手にして、わたしは固まりつつ首を傾げた。


なんだろう、これ。


封書を、何度も何度も裏返したり表にしたりした。


太陽にかざしてみたりもした。


でも、宛名も無ければ何も一文字だって書かれていない。


薄いピンク色の封書だ。


郵便の印鑑も押されていない。


誰かが直接このポストに入れたのだろうか。


そうだとすれば、誰なのだろう。


そう思って封書を開けようとして、でも、やめた。


もしかしたら、部屋の番号を間違えていたとしたら、と思ったからだ。


わたしか、健ちゃん宛ではなく、このアパートに住む他の住人宛だったら。


どうしよう。


迷い、困っていると、不意に肩を叩かれた。


振り向くと、アパートの大家さんが竹箒を片手に立っていた。


大家さんは80歳を超えるおじいさんで、少し腰が曲がっていて、白髪頭で眼鏡をかけている。


「あんた、西野さんと一緒に住んでる子だなあ」


しわくちゃの口元が動く。


わたしが頷くと、大家さんはずれ落ちそうな眼鏡をくいっと直して、腰を伸ばした。


< 608 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop