恋時雨~恋、ときどき、涙~
便箋にひと粒の涙が落ちた時、肩を叩かれた。


振り向くと、大家さんが白い眉毛を八の字にさせて、心配そうな顔で言った。


「どうしたかね……悲しいことが書いてあるのかね」


と大家さんはしわくちゃの小さな手で、手紙を指差した。


私は、ふるふると首を振った。


「それなら、なして泣いてんのかねえ」


私は、メモ帳にボールペンを走らせた。


【うれしいことが書いてあったから】


「ほう。いがったねえ」


大家さんがにこにこと微笑んだ。


「やっぱり、あのべっぴんさんは、あんたの知り合いだったんだね」


違う、と私は首を振って、メモ帳を差し出した。


「ああ……そうかい、そうかい」


メモ帳を見つめながら、大家さんはうんうんと頷きながら笑った。


【大切なともだち】


「いやいや。そうかいそうかい。よかった、よかった」


うんうんと何度も頷いて、大家さんはまた竹箒で辺りの枯れ葉や小石を集め始めた。


わたしは大きく息を吸い込んで、空を見上げた。


さっき、上空を通過して行った飛行機が、白線を真っ直ぐ残していた。


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