恋時雨~恋、ときどき、涙~
「なにて……進路や! し、ん、ろ」


幸は話しながら、両手も動かした。


「進路調査の紙、配られたやろ。みんなはどないやろ、思うてな」


「そうなんだよねえ」


私、まだ何も決めてないや、と肩をすくめる静奈の隣で、正反対に中島くんは目を輝かせた。


「おれは一応、決めてあるけど」


幸の鋭い視線が中島くんに向けられた。


「何やて! 言うてみいや! はよ言うてみいや」


物凄い迫力で幸は中島くんに迫った。


中島くんはびっくりした顔で、そのまま固まってしまった。


「教えてよ、中島!」


珍しく、静奈も食い付いた。


もちろん、わたしも。


「ちょ……ちょっと」


わたしたちがじりじりと詰め寄ると、中島くんの表情はみるみるうちにひきつった。


「3人にそんなに迫られると、正直、引くんだけど」


苦笑いする中島くんの胸元を、幸はぐいっとむしるように掴んだ。


「ええから! 教えーや」


幸の迫力に根負けしたのか、中島くんは顔をひきつらせたまま言った。


「小学校の、給食のおじさん」


短い沈黙を破ったのは、幸だった。


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