恋時雨~恋、ときどき、涙~
幸が、ぷはあと吹き出した。


「最高や! めっちゃええ夢やん」


ようやく胸元を開放された中島くんは、そうかな、と照れくさそうに深呼吸した。


「えー。中島がそこまで考えてると思わなかった」


と静奈が悔しそうに笑う。


「でも、栄養士としてそういう職につけたら、本望だよね」


わたしと幸は頷いた。


「そうかな。ありがとう」


中島くんが、わたしの肩を叩いた。


「真央はどう思う? 給食のおじさん」


中島くんに訊かれて、わたしは両手を動かした。


〈すごく、いいと思う。やりがいのある職業だと思う〉


「……だって」


と静奈が手話を訳すと、そうかあ、と中島くんは嬉しそうに春の空を仰いだ。


「せやけど、あかんわ。やっぱりあかん!」


と幸が中島くんの顔を指差した。


「小学生の給食作るおっさんが、こんな無愛想じゃ、あかんで。もっとにこやかなおっさんやないと」


「おっさん? おれ、まだ20歳だよ」


「アホか! 小学生のちびっこからしたら、20歳の男は、もう立派なおっさんやで!」


まるで兄弟のようにじゃれ合う幸と中島くんを、わたしと静奈は笑った。

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