恋時雨~恋、ときどき、涙~
彼ら以外の人が何かをくれたのは、健ちゃんが初めてだった。


夜空を見上げるわたしの肩を、健ちゃんが1回だけ叩いた。


「ひまわりみたいに、笑うんけな」


髪飾りに触れながらわたしが首を傾げると、健ちゃんはもっと大きな口でゆっくり言った。


「おまえ、ひまわりみたいに、元気に、笑うんけ」


わたしは固まってしまった。


たぶん、この瞬間、自分がろうあだという事を、わたしは忘れていたのだ。


健ちゃんの笑顔が眩しくて、だから、わたしは耳が聴こえない現実を、すっかり忘れてしまっていたのだ。


底抜けに明るく、全力で笑う人と知り合えて、わたしは嬉しかった。


でも、その帰り道で、あの事故が起きてしまった。







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