恋時雨~恋、ときどき、涙~
ペットボトルの緑茶をぐいっと流し込んで、中島くんが幸を睨む。


「そういう幸はどうなんだよ」


対抗するように、幸もペットボトルのほうじ茶を飲み干した。


「何がや」


「進路だよ」


どうせまだ決めてないんだろ、と残りのパンを頬張った中島くんを、幸が小突いた。


「何言うてんねや。もう決めとるわ」


目を大きくして静止した中島くんに、


「んな、驚くことかいな」


と幸が左手で突っ込みを入れた。


びっくりした。


驚いたのは、中島くんだけではなかった。


わたしも静奈も箸を止めて、中島くんのように固まった。


「なんやの。真央と静奈まで」


と呆れたとでも言いたげに、幸は手話を交えながら話し始めた。


「うちはな、卒業したら東京に行くつもりやねん」


東京の、北区。


都心からはずっと離れとって、静かな街や。


板橋の北区で、王子駅のビジネスホテルが並んでる路地で、先輩が小さなカフェ営んどるんや。


「卒業したら、しばらくはそこで世話になるんや。でな、金貯めて、いずれは自分の店出すんが夢やんなあ」


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