恋時雨~恋、ときどき、涙~
耳が聴こえないわたしに、就職先なんてあるのだろうか。


不意にため息が漏れる。


空はこんなに水色なのに、わたしの心の空は曖昧だった。


晴れるわけでもなければ、雨が降るわけでもなく、ただ、不安色の曇り空だ。


幸がわたしの顔を仰いだ。


「真央?」


わたしはハッとした。


〈なに?〉


「なに、て」


わたしを見る幸が心配そうな顔で手話をした。


「どないしたん。そんな浮かない顔して」


わたしは肩をすくめた。


〈不安になった。幸も、中島くんもちゃんと将来のこと、考えてるのに。わたしは……〉


わたしの両手制して、幸は無邪気に笑った。


「焦らんでもええやないの。ゆっくり、真央の答えを出したらええやんか」


なんも焦る必要ないで、と幸の両手が言った。


「迷うたり、悩むんは当たり前や。自分の未来のことなんやから。簡単に決めたらあかんで」


そんなん、後悔するだけや、と幸は言った。


なぜだろう。


幸の言葉たちは、重みがある。


ずっしり、わたしの両手に響く。


突然、静奈と中島くんがお弁当を片付け始めて、急ぎ始めた。


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