恋時雨~恋、ときどき、涙~
幸がわたしの肩をたたいて、校舎を指差した。


「余鈴や」


午後の講義が始まるらしい。


中庭を埋め尽くしていた学生たちが、一気にはけていく。


「午後の講義、講堂に移動だったよね」


急ごう、と静奈がわたしに微笑んだ。


この敷地内には四年制大学、短期大学、高校があって、今日は午後から四年制大学と短期大学が合同で、講堂で講演会があるのだ。


この大学の卒業生が講演するらしい。


講堂に向かって、まるで蟻の行列のように学生たちが歩いて行く。


「講演て何やねん。だるいっちゅうねん」


せやけど、これも単位に関わるんやろ、と幸はずんずん前を歩いて行く。


静奈がわたしの肩を叩いた。


「真央はわたしの手話を見てればいいからね」


〈ありがとう〉


わたしの手話を見て、静奈が微笑んだ。


少し前を歩いていた幸が振り向いた。


「早う! 急ぎや! ええ席なくなってまうやんか」


わたしと静奈と中島くんは目を合わせて笑った。


ええ席、とは居眠りしてもバレない後ろの目立たない席だ。


「しょうがないやつだなあ」


中島くんが言うと、静奈が笑った。


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