恋時雨~恋、ときどき、涙~
どうしたのだろうか。


まるで、魂を抜かれた人形のように立ち尽くして、幸は桜の木の方を見つめている。


かかしのように、そこに棒立ちになって。


わたしと静奈と中島くんは、お互いの顔を見あって小首を傾げた。


3人とも、思っていることは同じだったのだと思う。


幸、どうしたんだろう。


「幸?」


と、静奈の唇が大きく動いた。


たぶん、静奈は大きな声で幸を呼んだのだろう。


「幸! どうかしたの?」


それでも、幸はやっぱりぴくりとも動かない。


ただ、右手にスマホを握り締めて突っ立ったまま動かない。


幸は華奢だ。


春風に吹かれながら立ち尽くす幸の背中が、とても小さく見えた。


「幸ったら」


と静奈が幸の肩を弾くように叩いた瞬間に、わたしのミュールに何か固い感触があった。


足元を見ると、幸のスマホが転がっていた。


スマホを拾い、横から幸に差し出して、わたしは息を止めた。


いつも明るくて、びっくりするほど元気な幸の目が、とても悲しくて冷たいただの黒い石になって見えた。


幸は、桜の木の根元に座っているその人をただ見つめて、顔面蒼白になっていた。
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