恋時雨~恋、ときどき、涙~
「おれたちの寝室になるんけ。今はまだがらんとしてるけどな。いずれ、ふたりで選んだベッドを入れるんけ」


そこにそれがあるかのように、健ちゃんが手のひらをかざす。


「窓が東にあるから、朝日が眩しくて、目が覚める」


目が覚めると、隣にはいつも真央が居るんけ。


「それで、おれは嬉しくなる」


桜の花びらが、一枚、落ちる。


「しばらくはこのアパートで我慢して。いつか、海辺の街に家を建てるんけ。それまでは、このアパートで一緒に暮らそう」


今、別々に寝てるのは、おれなりのけじめだんけ。


そう言ったあと、健ちゃんは背筋を正した。


「今日は、おれの決意を伝えたくて」


聞いてもらえる? と微笑む健ちゃんに、わたしは頷いた。


「今日、レストランで、真央が席を外した時」


桜の木の下で、健ちゃんがゆっくりと両手を動かした。


「おれ、父ちゃんと母ちゃんに、言ったんけ」


あの時だ。


―……そういうことだから。



トイレから戻った時、健ちゃんの唇は確かにそう言っていた。


〈何て言ったの?〉


健ちゃんが、真剣な目をしていた。




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