恋時雨~恋、ときどき、涙~
「今すぐってわけじゃないけどな。真央が短大を卒業したら」


いずれは、そう言って、健ちゃんがわたしを指差す。


「真央を」


指先を前に向け、両手で物を受け取るように上に向けて、揃えた両手を手前に引き寄せる。


「もらう、って」


右手の親指を立て、左手の小指を立てて、同時に中央へ寄せて並べる。


「結婚して、一緒に暮らすつもりだって」


健ちゃんは右手の人差し指を口元にあて、わたしの方へ真っ直ぐ前に出して、笑った。


結婚するつもりだって。


「そう、言った」


もう、こらえることができなかった。


一生懸命、頑張ったつもりなのに、無理だった。


涙があふれる。


「真央は嫌か?」


健ちゃんに聞かれ、わたしは首を振った。


胸がいっぱいで、気持ちを手話にすらできない。


想像もしていなかった。


まさか、健ちゃんがそんなことを真剣に考えていてくれたなんて。


いつもあっけらかんとしていて、笑ってばかりの健ちゃんが。


こんなわたしとの未来を描いていてくれていたなんて。


それなのに、わたしはひとりで不安になって、右にも左にも動けなくなっていた。


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