恋時雨~恋、ときどき、涙~
「今すぐ結婚するわけじゃねんけ。だから、返事はまだいらねんけな」


二年後には、真央の父ちゃんと母ちゃんも、この街に戻ってくる。


「その頃には、今より稼げるようになってるんけ」


もう一度、頷く。


涙で、笑顔の健ちゃんが霞む。


「だんけ、もう少し待ってて」


ひらり、ひらり。


桜が降ってくる。


「ちゃんと、真央を養える男になるんけ」


雨のように、降ってくる。


「おれが正式にプロポーズする日まで、待ってて」


マシンガンのように休むことなく動くその両手を、わたしはそっと掴んだ。


「真央?」


健ちゃんが少しだけ目を大きくして、わたしを見つめた。


健ちゃんは、いつも、真っ直ぐな瞳をしているんだね。


「どうした? 真央」


真っ直ぐ、わたしを見てくれるんだね。


もういい。


もう、十分だよ。


健ちゃん。


わたしは首を横に振りながら、小さく笑った。


〈わたし、焦っていた。不安だった〉


「不安? なにが?」


順也も静奈も、幸も中島くんも。


みんな、将来の夢や目標があって。


〈でも。わたしはまだ検討すらついてなかった〉


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