恋時雨~恋、ときどき、涙~
健ちゃんが、倒れていた。


こめかみに青筋を立てて、額に大粒の脂汗を滲ませて。


意識はあるようだ。


きつくきつく歯を食いしばり、お腹を抱えてうずくまり、健ちゃんは悶えていた。


背中にぞくりとしたものが走る。


怖くて、足が震えて、動けなかった。


悶え苦しむ健ちゃんを、ただ、見つめていた。


肩を強く叩かれてハッとした。


静奈だった。


「とにかく、救急車、呼ぶね!」


静奈がリビングに駆け込んで、受話器をとる。


何をすればいいのか、分からない。


わたしは、我を失ってしまった。


目の前で健ちゃんが苦しんでいるのに。


わたしには……何もできない。


10分ほどで救急車が到着した。


わたしは静奈と一緒に車で救急車を追いかけた。


運び困れた健ちゃんは、そのまま緊急手術になった。


「盲腸ですね」


担当の医師からそう告げられたのは、健ちゃんが手術室に入って間もなくのことだった。




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