恋時雨~恋、ときどき、涙~
「ああー。もう。びっくりした」


待合室のソファの背もたれにもたれて、静奈が脱力した。


良かった。


本当に良かった。


トイレで倒れている健ちゃんを見た時は、どうなることかと思った。


怖くてたまらなかった。


もしかしたら、死んじゃうかもしれない。


正直、そんなことを思った。


命に別状がなくて、良かった。


〈びっくりした……怖かった〉


ソファーに深く体を沈めたわたしに、


「もう大丈夫。とりあえず、順也に電話してくるね」


と静奈は待合室を出て行った。


その直後、待合室のドアが勢い良く開いた。


静奈とほぼすれ違いに入って来たのは、健ちゃんのお父さんとお母さんだった。


「真央さん」


健ちゃんのお父さんが、わたしに駆け寄って来る。


「健太は?」


〈今、手術を〉


と言いかけて、わたしは手話をやめた。


肩をすくめる。


健ちゃんのお母さんのこめかみが、ぴくりと動く。


悲しい目を、彼女はしていた。


困った顔の健ちゃんのお父さんが、肩をすくめるわたしを見つめていた。


手話、通じないんだった……。


わたしはポケットに手を突っ込んだ。


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