恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしたちも、いつも一緒だった。


〈あの……〉


わたしは、健ちゃんのお母さんの顔を扇いだ。


ひとつ、気になったからだ。


〈どうして?〉


さっきから。


健ちゃんのお母さんはさっきから「だった」と過去形ばかりだ。


〈ひとつ、きいてもいいですか?〉


「なに?」


わたしはたずねた。


〈どうして、だった……過去形なの?〉


健ちゃんのお母さんは目を細めたあと、小さく小さく微笑んだ。


そして、ゆっくりと両手を動かした。


「もう、いないから。ふたりはもう……いないのよ」


背中を丸めてうつむくその姿はまるで別人のようで、見ているこっちが切なくなる。


「いないって……」


順也がつぶやく。


健ちゃんのお母さんが小さく頷いた。


「高校三年生の夏だった。私たちは3人で買い物へ出掛けたの」


待ち合わせ場所は、海が見えるバス停。


先にわたしと祐司が着いて、まもなくして美雪がやってきた。


道路を挟んで向こうに居た美雪は、私たちを見つけるなり楽しそうに横断してきた。


もう、目の先まで、車が迫っていたことにも気付かず。


< 746 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop