恋時雨~恋、ときどき、涙~
私と祐司がどんなに叫んだところで、その声が美雪に届くはずはなかった。


「美雪は、車に跳ねられてしまった」


息がつまる。


「私たちの目の前でね」


わたしも順也も、どちらからともなく手を繋いでいた。


順也……。


わたしの手を握る順也の手が、何かにひどく怯えるように震えていた。


「もう、即死だったらしいわ。でも、ぐったりしている美雪を抱き締めて、祐司は狂ったように泣き叫んだ」


その後、祐司は誰とも口をきかなくなったし、誰とも目を合わせなくなった。


「仲良しだった私にさえ」


仕方ないわよ。


恋人を失う気持ちは、きっと、計り知れないものだったと思うもの。


そう言って、健ちゃんのお母さんは奥歯を噛んだ。


「それからの祐司は、見ていられなかった。日に日にやつれて、別人になっていったの」


卒業後、ついに音信不通になってしまったわ。


健ちゃんのお母さん越しに広がる空は、いまにも泣き出しそうな悲しい色をしていた。


わたしは直感した。


西の空が黒ずんていたから。


もうじき、雨が降る。


「その後、私は結婚して、20歳で健太を身ごもった」


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