恋時雨~恋、ときどき、涙~
ベランダの窓に雨粒がぶつかってはじける。


その音に気付いたのだろう。


順也が外を見つめた。


「あめ」


順也の唇がつぶやく。


でも、わたしは健ちゃんのお母さんの両手から目を反らすことができなかった。


「健太から、あなたと交際していると言われた日から。いいえ。あなたと初めて会った日から、あの日が蘇って、怖いのよ」


あなたは、美雪と同じ目をしているから。


「あなたといると」


健ちゃんのお母さんが、そっと、わたしを指差した。


「いつか健太が……祐司のようになるんじゃないかって」


その強い瞳から、わたしはどうしても逃げることができなかった。


「怖くてたまらなくなるのよ」


健太が、あなたと交際していると言った時。


いずれ結婚するつもりだと言った時。


「私は怖かった」


この子たちに、美雪と祐司のようなことが起きてしまったら、どうしようかと。


怖かった。


今も怖くてたまらない。


健ちゃんのお母さんの目から、大粒の涙が落ちて、頬を伝い落ちる。


「他人から見れば、健太はどこにでもいる子かもしれない。でも、私にとっては大事な息子です」


< 749 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop