恋時雨~恋、ときどき、涙~
愛しそうに、大切そうに、健ちゃんのお母さんの手は優しい動きをしていた。


「どこの親だって、きっと、同じことを思うわ」


まるで、その両手に赤ちゃんを抱いているかのように。


「親ってね、どんなに出来が悪くても、どんなにバカでも。子供がいちばん大切なものだから」


なんとなく、健ちゃんのお母さんの言おうとしている事に予測がついてしまった。


わたしは、肩をすくめた。


「子供に苦労する人生を送って欲しくない。何かを背負って、我慢するような結婚はしてほしくない」


たまらず、わたしは目を閉じた。


頭にきた。


悔しかった。


でも、何も言い返すことができない。


それがいちばん悔しかった。


何かを背負って、か。


何、とは、わたしのことなのだ。


わたしの手からするりと手を抜いて、順也が前のめりになった。


「苦労って、何かを背負ってって、我慢て……どういう意味ですか?」


順也は、いつも冷静だ。


どんなときも。


でも、今は、怖い顔で健ちゃんのお母さんを見つめていた。


「どういう意味ですか」


健ちゃんのお母さんが背筋を伸ばす。


わたしに向かって、両手を動かした。


「失礼なことを言っているのは分かっています。でもね、真央さん」



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