恋時雨~恋、ときどき、涙~
もし、今回のようなことが起きたら。


健太に何かあったら、その時は。


あなたは気付くことができる?


救急車を呼ぶことができる?


もし、結婚して、子供ができたら?


どうするの?


産んだとしても、子育てはできるの?


子供の泣き声に気付くことはできる?


健太はできるかもしれない。


あなたを幸せにできるかもしれない。


でも。


あなたにはできる?


普通に耳が聴こえる人と同じように、それ以上に、健太を幸せにできる?


「あなたと健太は……普通の人たちのように、幸せになれる?」


心臓が張り裂けそうだった。


痛くて、痛くて。


軟膏をぬっても、バンドエイドでふさいでも、どうにもならない痛みだった。


わたしには、健ちゃんを幸せにできないの?


どんなに頑張っても……できないの?


健ちゃんのお母さんが唇を震わせながら、同時に両手を動かした。


「健太と」


両手の4つの指を甲側に合わせる。


「あの子と」


できることなら、目を反らしたかった。


左右にゆっくりゆっくり、離れていく両手。


背中合わせにした両手が、左右に離れていった。


「健太と、別れてくれませんか?」



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