恋時雨~恋、ときどき、涙~
血が繋がっているわけでもないのに、こうして自分のことのように必死になってくれる幼なじみが、わたしにはいる。


それだけでも、じゅうぶん幸せなことなのに。


それでも、これ以上の幸せを望むわたしは、なんて欲張りなんだろう。


わたし、何を勘違いしていたのだろう。


何を夢見ているんだろう。


ばかみたいだ。


健ちゃんに出逢うまで、わたしははいかぶりの女の子だった。


わたしに魔法をかけてくれたのは魔女じゃなくて、夏の海だった。


あの日から、わたしはきっとシンデレラだった。


でも、所詮、わたしははいかぶり。


音のない世界をさまようはいかぶり。


初夏の雨が、魔法を解く。


わたしはシンデレラから、たったいま、はいかぶりに戻ろうとしている。


短い間だったけれど、わたしにかけられた魔法は、五月雨で解けていく。


シンデレラはガラスの靴を落とした。


でも、わたしは、たったいま。


どこかにガラスのピアスを落としてしまったのだ。


シンデレラから、はいかぶりに戻る。


大丈夫。


もともとは、はいかぶりだったのだから。


大丈夫。


諦めることは慣れっこだから。

< 754 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop