恋時雨~恋、ときどき、涙~
だって。


悔しいから、こんなことは言いたくないけど。


本当は認めたくないけど。


〈もしかしたら、同じ事が起きないとも限らない〉


絶対に違うとは言い切れない。


順也は両手で何かを言いかけて、やめた。


何かを我慢するように、口を一文字に結んでいる。


わたしは、健ちゃんのお母さんの顔を扇いだ。


必死に作った偽物の笑顔を添えて。


〈健ちゃんは、耳が聴こえないわたしに、音を教えてくれました〉


健ちゃんと一緒にいると、とても楽しかった。


聴こえることはなかったけど。


わたしは、健ちゃんから、いろんな音を教わった。


〈健ちゃんと居ると、たくさんの音が見えました〉


ヒュー。


ドーン。


花火の音。


ガオー。


ライオンの鳴き声。


メエー。


羊の鳴き声。


ピョンピョン。


うさぎが跳ねる音。


ゴロゴロ。


雲の鳴き声。


ドーン。


雷は花火と同じ音。


ザッザッザッ。


竹帚がアスファルトをこする音。


ザー。


雨の音。


さらさら、さらさら。


時雨の、音。


〈健ちゃんに出逢ってからの毎日には、音がありました〉



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