恋時雨~恋、ときどき、涙~
殺風景だったわたしの世界に、いろんな音が見えるようになった。


〈それが楽しくて、嬉しくて〉


わたしの両手をただじっと見つめながら、健ちゃんのお母さんは頷いていた。


〈わたしは、夢を見ていたのかもしれません〉


胸の奥が熱い。


〈夢はいつか覚めてしまうものだということを、わたしは、忘れていました〉


毎日が楽しくて、幸せすぎたから。


〈健ちゃんは、わたしに、たくさんのことを教えてくれました〉


音がある世界も、意外とたいくつだということ。


物事は簡単に諦めてはいけないこと。


我慢すると鼻が伸びてしまうこと。


友達は大切にしなければいけないこと。


本当に強い人とは、ちゃんと泣くことができて、そのあとにちゃんと笑えるひとのことだということ。


恋はじれったくて、切なくて。


けれど、とてもとても暖かいものだということ。


数えるときりがないけど、健ちゃんは教えてくれた。


〈信じることの大切さを〉


わたしは深呼吸した。


〈分かりました〉


「真央さん……?」


健ちゃんのお母さんが小首を傾げる。


わたしは頷いた。


現実を、受け入れなきゃ。


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