恋時雨~恋、ときどき、涙~
両手のひらを上に向けて開く。


胸元から下へ、指を閉じながら下ろした。


〈健ちゃんを、諦めます〉


もうこれ以上、大切な人に迷惑をかけることはできない。


涙が溢れる。


震えるわたしの両手に触れて、健ちゃんのお母さんが何度も何度も謝った。


「ごめんなさい。真央さん。ごめんなさい」


こんな結果にさせてしまって、ごめんなさい。


そう手話をして、健ちゃんのお母さんは泣き崩れてしまった。


順也がうつむいていた。


仕方のないことだ。


わたしは、健ちゃんのお母さんの肩を叩いた。


〈ひとつだけ、お願いがあります〉















健ちゃんのお母さんが帰ったあと、わたしは順也とリビングで向かい合っていた。


順也が面白くなさそうな顔で、窓の外に視線を投げ出す。


わたしの心は洞窟のように暗くて穴があいていた。


「ねえ、真央」


順也に顔を扇がれて、ハッとした。


〈なに?〉


「さっきのあれ、どういうこと? 真央、本気なの?」


わたしはわざとらしくはぐらかして、苦笑いした。


〈あれって? 何のこと?〉


立ち上がろうとするわたしの腕を、順也が掴んだ。


「はぐらかさないで。ちゃんと説明してくれないと、分かってあげられない」


真っ直ぐな瞳に、もうはぐらかしてはいられないことを確信した。



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