恋時雨~恋、ときどき、涙~
明明後日の朝、8時4分発の新幹線で、わたしはこの町を出ることにした。


健ちゃんが退院して、一週間後のことだった。


この一週間は必死だった。


とにく必死に過ごしていたから、あっという間だった。


健ちゃんと同棲を始めてまだ半年も経っていなかったのが幸いだったのかもしれない。


服も靴も、荷物は思ったより少なくて、段ボール3箱で足りた。


突然、クローゼットの中身を段ボールへ移したり、小物を整理しているわたしを変に思ったのだろう。


思わない方がおかしい。


もしかしたら、健ちゃんは心の片隅で何かを感じとっていたのかもしれない。


「毎晩、荷造りみたいなことやってるけど。一体、何してるんけ」


健ちゃんが疑心に溢れた顔で聞いてきたのは、つい、一昨日の晩のことだ。


内心は転げ回って焦っていたものの、笑ってはぐらかして嘘をついた。


〈夏だから。冬物をしまってるだけ〉


自分を大女優だと思いながら、自分に落胆した。


大切な人に嘘をつくことが、こんなに簡単だったなんて。


〈健ちゃんも、そろそろ冬物しまったら?〉



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