恋時雨~恋、ときどき、涙~
足が重い。


ロボットのようにぎくりしゃくりと歩く。


歩いても、歩いても、気持ちがおさまらない。


歩くことさえ、嫌になった。


大きな息を吐き切って、わたしは立ち止まった。


西日がきつくて、照らされている左半身が焦げ付いてしまいそう。


だめだ。


このままじゃ、本当にロボットになってしまいそうだ。


わたしは一体、何をしようとこの町へ来たのだろうか。


わたしは一体、何のために、3年前、生まれ育った大好きなこの海辺の町を出たのだろう。


大切なひとの幸せを思えば、そうするしかなかった。


それは、ただの綺麗ごとだ。


本当は、ただ、自分自身が傷つきたくなかったから。


これ以上、傷つくのが怖かったからだ。


わたし、何をしているんだろう。


わたしはどれくらい、彼を傷付け、苦しめれば気が済むのだろう。


嫌になる。


自分が嫌になる。


悲しいのか、悔しいのか、それさえ分からない。


可燃も不燃も、粗大も、なにひとつ分別されずに一枚の袋に詰め込まれてしまった不要物のように。


全く判別できない、ごちゃごちゃに入り混じった感情が、体をぐるぐる走り回る。


わたしはブーケを抱きしめて、唇を噛んだ。


油断すると涙がこぼれ落ちてしまいそうで、奥歯を噛みながら正面に広がる砂浜を見つめた。


あの日、わたしはこの海で、恋をした。


した、というより、ストンと落ちた感じだった。


ふたりなら、どんな障害も越えて行けると信じていた。


信じて、疑いもしなかった。


でも、現実は甘くはなかった。


だから、別れを選んだ。


そうするしかなかった。
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