恋時雨~恋、ときどき、涙~
音のない世界は殺風景で、つまらなくて、たいくつで。


ずっと、そう思って生きて来たけれど。


ああ。


乱れる呼吸を整えながら、木漏れ日に目を細める。


なんて眩しい美しい世界に、わたしは存在しているのだろう。


木漏れ日に、手を伸ばしてみる。


わたしは、この木漏れ日の世界で、たくさんの事を知った。


信じ続けること。


順也が、教えてくれた。


支えること。


静奈が、教えてくれた。


諦めないこと。


幸が、教えてくれた。


そして、誰かを愛することの温度。


教えてくれたのは、ひだまりのような人だった。


わたしは両手を広げて木漏れ日にかざし、手のひらを見つめた。


ほら。


この、右手。


わたしには、耳がある。


ほら、ね。


この、左手。


わたしには、声がある。


他には、何も要らない。


ちらちら、ちかちか。


木漏れ日が降り注ぐ木のトンネルの階段を、わたしは、一気に駆け下りた。


わたし、音を聴くことができません。


わたし、聴こえない。


わたし、音が分かりません。


わたし、声の出し方が分かりません。


だけど。


わたしには、両手があります。


言葉にできない、この胸いっぱいの気持ちを。


言葉にできない、この両腕からこぼれそうなほどの想いを。


この両手で、あなたに伝えたいと。


そう、思いました。
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