月影の剣
君は?
たずねられて名乗る。

「自身は、月夜。」

「月夜…か。綺麗な名前だね。」

グルル…。

突然自身の後ろから唸り声が聞こえた。

(しまった…自身の馬鹿…。ここに来たのは、何のためだ)

「動かないでね、月夜」

キスイが左手を振るったのが見えた。

そして、キスイの手から後ろの唸り声に向かって飛来する何か。

ギャン。
背後から悲鳴が上がった。

キスイの左手からキラキラと、日の光に反射して名残の水滴が飛ぶ。

それで判った。彼が放ったのは、水の塊だ。

「危なかった、ね」

手の甲と頬に一部浮かび上がる真珠の鱗。キスイは、水に由来する人外らしい。

スッと彼から殺気が消え、それと共に縦長になっていた翡翠の瞳は、キスイを初めて見た時と同じ、黒の人間を模した瞳へと戻る。

鱗も消え、少し明るい色の髪がサラリと風に揺れて、爽やかな美少年スマイルを彩る。

「これが、今回のターゲット…かな」

自身の鼻に、黴臭い臭いがとどいた。

ザザザザ…。

無防備に"影"の死骸に近付くキスイの脇の低木が揺れた。

自身は慌て月光を取り出し、そちらに向かう。

鞘を途中で投げ出し、新たに出現した"影"に斬りつけた。
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