斎宮物語
そのあと、話題が無くなりしばらく沈黙が続いた。
「のう、いつき。」
「はい。」
「わしは思うのじゃ。
この大奥はまことに不便でならぬ。
そなたにあいたくとも簡単にはいかぬのじゃ。」
「上様…。」
「それに、浄光院様をはじめとする城の者は皆、世継ぎはまだか、と。
もう。鍋松がおると言うても、1人ではなにかあったらと言い返される。
わしは疲れた。」
上様はほんにお可哀相なお方…。
下の者には愚痴もいわず、一人で抱えてこられたのね…。
「上様。
上様にはこのいつきがついております。
私、微力ながら上様をお支え申し上げます所存。
それに上様にはまこと美しい御台様とておるではありませぬか。
あなた様は天下の将軍様。
なにも案じることなどございますまい。」