斎宮物語
「上様。」
おん5代将軍綱吉様の御台様、浄光院様が、上様をよびとめた。
「はい。」
「このようなこと、今言うべきかわかりませねが…。」
「どうぞ、おっしゃってください。」
「では、遠慮なく。
お世継ぎは、お世継ぎはまだにございますか?
綱吉公にも、お世継ぎがおられず、上様が将軍職におつき遊ばしましたでしょう。
このままでは、幕府の存続に関わります。」
「はい…。」
すると、浄光院様は私たちの方を向き、
「皆、早く上様の御子を…お世継ぎを挙げられるよう、しっかり励みなさい。」
「はい。」
「かしこまりましてございます。」
「懸命に励みまする。」
「がんばります。」
私たち側室は、口々に返事をする。
次に、浄光院様は、御台様の方を向き、
「御台さん、他の女子が御子を身ごもるのは辛いでござりましょうが、ここは幕府の為、堪えてくだされ。」
「はい。
私、上様の御子を2人、身ごもることが出来ただけで十分幸せにございます。」
と、御台様は答えた。
その時の御台様の顔がとても哀しかったのは、言うまでもない。