神様・俺様・速人様


扉が閉まると同時に、廊下からは笑い声が聞こえる。

「ったく」

ため息をついて、リビングにあたしを促した。

『ごめ………ん』

「男子寮に女子が来たらダメなんだよ」

少し諦めを含んだ瞳であたしを見た。

『え?』

「退学になるんだぞ!」

速人は強い口調であたしに言った。

『…………うそ』


「お前…特待生だろ?」

だから…出ていけとか言ったの?


「困るんじゃねーの?親御さんとか」


困る?何が?

『困らない…あたし家出みたいなもんだから』

「家出?」

『あたしには、陸上しかないの』


「わかったから、とにかくお前はここに居てはいけない」

さとすようにあたしの手を引いて玄関に連れていく。

『そっ………そんなにあたしと必要以上に関わりたくないの…?』

「女が嫌いって知ってるだろ?」

速人はあたしの手をキツく握る。


『じゃあ何で…』

「そんなに、気に入った意味が知りたいのか?」


そう言うと速人はあたしをリビングの壁に押し付けた。


顔が近い。

まるで直哉と視線がぶつかった時みたい………


両手を掴まれてあたしは身動きが取れない。


『は………なしてっ!』


しかし、男の力に敵うはずもない。



「ほんと…」


そう言うと速人は音もたてずに…


『……………』


いや…?

音がしたかな?


「お前…キスぐらい経験しとけや」


瞬時には馬鹿なあたしには何が起こったのかわからない…


唇が触れた…


ただそれだけ…
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