青空の奇跡


7月後半。


最近、彼を見なくなった。


あたしの日課。


ぽっかりあいた一日の時間。


大好きな晴れの日も。


彼はやってこない。





ガチャ


「結衣、また窓辺に立ちすくんで‥‥。
毎日何を見ているの?」


ドアを開けたのは、あたしのお母さん。
滅多に外出できないあたしの外を眺めてる姿。
それはお母さんには辛いと思う。

だから、いつもホントの事は内緒。



「今日は雲が綺麗なの。
良い絵のモデルになるなぁって見とれてたの。」


ほら、見て。とあたしは自分の描いた空の絵を指差す。

そうすると、お母さんは上手ね、本物の空みたい。って言ってくれるの。


あたしは絵を描くのが好きだった。
絵の中の世界は、あたしという設定の絵を何も言わずに受け入れてくれる。


空を飛ぶあたし、海で泳ぐあたし、宇宙に浮かぶあたし。
どんなあたしもこの白い紙の上では、あたしの自由。



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